ノリクラ 雪渓カレンダー
Vol.11(2013/07/20〜21) @
7月1日からの冬季閉鎖解除後も通行止めが続いていた大雪渓から県境畳平の区間が7月19日(金)に開通して、長野県道乗鞍岳線(エコーライン)はようやく全線開通しました。これで夏のノリクラがすべて揃ったことになります。そして、夏空がいっぱい広がった週末を、待ち望んでいた方々も多かったことと思います。名実共に梅雨明けして夏本番となりました。
取材一日目の7月20日(土)は、快晴の朝を迎えます。5時の気温は10℃。ひんやりとした感覚を通り越して肌寒さを覚えるほどの状況。一時的に薄い雲がたなびくものの、お昼前から完全に快晴となり、空の青と雪の白のコントラストが冴え渡る夏のノリクラの光景が広がります。梅雨明け後、初めての本格的な夏模様の週末となりました。しかし、日差しはそれほど強くなく、上空も透明感あふれる状況が続き、一日中安定した天候が続きました。
取材二日目の7月21日(日)は、青空の朝を迎えます。5時の気温は12℃で昨日ほどの冷え込みはありません。この後、天候は曇り空となり、日差しがなくなった分、終日過ごしやすい状況でした。ヒルクライマーは昨日以上にたくさんお越しになり、シャトルバスやタクシーよりも多いのではないかと思うほど。大雪渓にはいつものように多くのスキーヤー・モーグラーがお越しになっています。そして、見上げる稜線付近は山頂目指してたくさんの方が登って行き、まるで蟻の行列を連想させるほどの状況でした。今日は大黒岳や魔王岳で熊の目撃情報があり、魔王岳は11時15分から入山禁止の措置が取られました。
大雪渓の積雪量は、この1週間の雪解けがやや少なく、昨年との比較では、先週よりもさらに雪解けが遅い様子が見られます。入口付近で昨年よりも雪解けが1〜2週間ほど遅い状態、上部も全体的には昨年より1週間程度遅く、場所によっては昨年並みかやや少ない状況です。また、剣ヶ峰(乗鞍岳山頂)へ向かう登山道は、畳平から山頂へのルートではアイゼンは必要ありませんが、大雪渓からのルートでは、肩の小屋までの登山道に積雪区間が120メートルほど残っていて、例年より1週間ほど雪解けが遅く、やはりアイゼンが必要です。
【7月20日(土)、観光センター前駐車場】
夜の観光センター前駐車場 |
こちらは前夜の観光センター前駐車場。少し雲がたなびく状況ですが、月が明るい夜を迎えています。気温は14℃、ややひんやりと感じる状況で、日中の暑さはまったく残っていません。
満月と変わらない明るさ | 月傘 − 天候悪化のサイン |
雲間からくっきりと月が顔をのぞかせています。今月の満月は7月23日(火)で、あと4日ほどです。満月の約3分の2程度の大きさですが、ほとんど満月変わらないほどの明るさです(月齢10.8)。そして、その月の周りには月傘が取り囲んでいます。太陽にかかるのが日傘、月にかかるのが月傘と呼ばれますが、日傘・月傘がかかると天候は悪化傾向を示している言われています。
さて、明日の天候はどうでしょうか...
翌朝の観光センター前駐車場 − 気温10℃寒い朝 |
一夜明けた6時の乗鞍高原はご覧の通り、きれいな青空の朝を迎えました。昨晩の月傘の心配を払拭させてくれる天候です。気温は10℃、ひんやりとした感覚を通り越して、肌寒さすら覚えるほどの状況です。
日差しが差し込んで寒さが和らぐ |
しっかりとした日差しが観光センター駐車場にも差し込むようになって来ました。日差しが差し込むと同時に、肌寒さも少しずつ解消されてきます。ただ、肌をジリジリと焦がすほどの力強さではありません。今日はこの先もそれほど太陽の灼熱感は感じられない過ごしやすい一日となります。
シャトルバス乗車券発売所 | 昨日から畳平まで通常運行 |
こちらはシャトルバスの乗車券販売所。先週までは大雪渓以降が通行止めのため、大雪渓・肩の小屋口までの折り返し運転の掲示がなされていましたが、昨日7月19日(金)より、通行止めが解除され、シャトルバスも通常運行となったため、今日の掲示は「バスの運行状況 正常」となっています。
タクシー乗り場 | 畳平まで開通しないとダメだね! |
シャトルバスよりも早くお越しになっているのはタクシーの運転手さん。
「やっぱりねぇ〜。畳平まで開通しないとダメ!だって、エコーライン(県道乗鞍岳線)と乗鞍スカイラインでは、高山植物は全然種類が違うんだもん。だから、両方をお客さんに見てもらって、違いとか良さを感じてもらわないとね...」
お客様のご要望やお時間に応じて、県道乗鞍岳線の花だけでなく、その先の乗鞍スカイラインまで足を伸ばすこともよくあるとのこと...
乗鞍スカイラインに行くとこんな花も見られるよ! − イワベンケイ |
「これはエコーラインには、咲いてないよ!乗鞍スカイラインに行かないと見られないよ」と、スマホを見せてくれたのはイワベンケイ。
乗鞍スカイライン沿線のイワベンケイ − 過酷な環境に咲く高山植物がスカイラインには多い |
スマホの画面ではちょっと見づらいため、翌日、撮影しなおした画像を掲載します。こちらは乗鞍スカイラインの桔梗ヶ原の少し山麓側にあるイワベンケイです。確かに県道乗鞍岳線では見かけない高山植物です。
乗鞍スカイラインのほうが自然環境が過酷なエリアがあり、県道乗鞍岳線ではあまり見られないコマクサやイワベンケイなど、「高山植物の中の高山植物」といえるような種類が多数見られることが、乗鞍スカイラインの大きな特徴ともいえます。
そのため、多岐にわたって自然観察を楽しみたい方は、タクシーなどを利用して乗鞍スカイライン側へも足を伸ばすこともオススメします。
シャトルバス乗り場 |
シャトルバス始発便を待つ停留所は乗客の方々の列ができ始めます。7月に入ってから、始発便で列ができる様子は初めてのことかもしれません。
始発便到着 |
そして、いつものように始発便の改札が始まります。
今日の始発便は2台 |
今日の始発便は2台が運行されました。お越しになった乗客の人数に応じてバスの運行台数を増やします。毎回、バスが到着してから急いでバス乗り場にお越しになる方がいらっしゃいますが、バスの発車時間が遅延する原因になりますので、できる限り早めにバス停留所にお越しくださるようお願いいたします。
案内表示も「乗鞍山頂(畳平)」 | 終点畳平まで通常運行開始 |
これまで「大雪渓・肩の小屋口」だった案内表示も、今日は「乗鞍山頂(畳平)」と通常の表示に戻り、始発便は出発しました。
【観光センターから大雪渓へ、沿道の風景 T】
ここからは大雪渓までの沿道の様子をお伝えします。
道路脇を注意深く観察 |
沿道の山野草・高山植物もかなり種類が増えてきました。道路脇を注意深く観察していると色々な花を見つけることができます。
オオバギボウシ − つぼみが葱坊主のような形から命名 |
こちらはオオバギボウシ(大葉擬宝珠、ユリ科ギボウシ属)。擬宝珠(ぎぼうしゅ)とは、橋の欄干にある柱の頭の飾りのことを指し、葱坊主のような形をしたものです。オオバギボウシのつぼみが擬宝珠に似ているところから名づけられています。
新芽は山菜として珍重 | 春には山菜取りに |
オオバギボウシの新芽(若葉)は、山菜として珍重されていて、ご覧のように茎から切り取られている様子があちこちで見られます。特徴的な花に加えて、葉が切り取られた様子を見れば、すぐにオオバギボウシとわかるでしょう。
【参考】コバイケイソウは全草有毒 オオバギボウシと誤食 2009ノリクラ 雪渓カレンダー Vol.11(2009/07/25〜26) C |
参考までにオオバギボウシと葉がよく似ている高山植物にコバイケイソウがあります。こちらは有毒で誤食による食中毒が各地で見られます。
きれいに晴れ上がる | 一目でわかる大きな花 |
こんなにきれいに晴れ上がった日は、ゆっくりと周辺を散策するだけで楽しいもの。山野草の花は小さいので、歩くスピードでないと見られないものが多いものですが、こちらは一目でわかるほどの大きな花をつけています。
ナツツバキ |
一見してツバキの花であることはすぐにわかります。しかし、ツバキは冬に咲くというイメージがありますが、こちらはナツツバキ(夏椿、ツバキ科ナツツバキ属)です。多くのツバキが常緑高木なのに、こちらは落葉高木です。つまり、冬には花が咲くどころか葉が落ちて丸坊主になります。
別名サラノキ−木肌がサラソウジュに似る | 花弁の縁がギザギザ − ヒメシャラとの相違点 |
仏教の三聖木の一つとされ、釈迦がこの木の下で入滅した言われるサラソウジュ(フタバガキ科コディアエウム属)に木肌が似ているところから、ナツツバキは別名「サラノキ」とも呼ばれています。また、ナツツバキの仲間で花や葉が小型のヒメシャラという種類がありますが、花弁の縁にギザギザがありません。
三本滝ゲート − この先マイカー規制 |
観光センターから7km先にある三本滝ゲート。マイカー規制はここから始まります。
かもしかゲレンデ | ニッコウキスゲが咲き乱れる |
こちらはかもしかゲレンデ。三本滝ゲートのすぐ隣にあります。先週もお伝えしましたが、ご覧のようにニッコウキスゲが咲き乱れています。つぼみの状態のものが少なくなってきましたので、早めにお越しになられたほうが良いでしょう。ここまではマイカーで訪れることが可能です。
ニガナにベニシジミが集まる |
かもしかゲレンデ一帯に咲き始めたニガナ(苦菜、キク科ニガナ属)、茎を折って出る乳液が苦いところからこのように呼ばれています。そのニガナの花にはたくさんのベニシジミ(紅小灰蝶、シジミチョウ科ベニシジミ属)が集まっています。茎の液は苦いのに蜜は苦くないのでしょうか...
ベニシジミの交尾(上:オス、下:メス) |
蝶(チョウ)は一年のうちに何回も世代交代していて、蛹から羽化する時期によって季節型があります。ベニシジミの場合、オレンジ色(紅色)が濃い春型と、こちらの画像のように暗色化した夏型、そして、春型に色合いが近い秋型が知られています。
こちらの画像では夏型のオス(上)とメス(下)の交尾の模様です。次の「秋型」への世代交代の準備が始まっています。(→ Next)
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