ノリクラ 雪渓カレンダー
Vol.8(2014/06/28〜29) E
【山頂までの登山道 T(肩の小屋〜稜線手前)】
それでは肩の小屋から稜線までの登山道の様子をお伝えします。
山頂・稜線方面全景(青線:無雪箇所、赤線:積雪箇所) |
7月からの乗鞍岳登山(剣ヶ峰登山)を計画されている方にとって、現在の乗鞍岳積雪状況が気がかりになると考えられます。こちらの画像は、6月28日の速報でに掲載した画像ですが、青線は無雪部分、赤線は積雪部分で、現在積雪があるのは大雪渓の登山道入口から肩の小屋までの約700メートル、朝日岳直下、また、画像では赤線が記してありませんが、頂上小屋の先からの数十メートルの区間です。(頂上小屋付近の様子はこのあとのコーナーでお伝えします。)
登山道脇をキバナシャクナゲが縁取る |
肩の小屋から登山道に入ると、登山道の脇をキバナシャクナゲが縁取っています。他の場所でも同様ですが、ハイマツ帯に隣接するように植生しています。また、ハイマツ帯よりも背が低いものも、珍しいかもしれません。それだけ、厳冬期の厳しさがここに存在しているというわけです。
厳冬期は常に西からの強い風にさらされ、雪ではなく氷の世界が広がっています。
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先週の登山道 ノリクラ 雪渓カレンダー Vol.7(2014/06/20〜21) B |
今週の登山道 一気に雪解け |
さて、積雪が少なくなってくると、一気に雪解けが進みます。右の画像は先週のものですが、ほぼ同じ箇所の今週の様子をご覧頂くと、全く積雪がありません。そのため、常に最新の情報をもとに登山計画を立てていただくことが必要です。
山頂・稜線方面全景(青線:無雪箇所、赤線:積雪箇所) | ここから積雪が始まる(朝日岳直下、積雪区間50m前後) |
左の全体画像のうちで、朝日岳直下の赤矢印線の付け根部分が右の画像の箇所で、この先の稜線方面へ積雪が始まります。積雪区間は50メートル前後ですが、積雪量がまだ多いため、今後、当分は残っていることが考えられます。
【山頂までの登山道 U(稜線直下)】
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先週の稜線 ノリクラ 雪渓カレンダー Vol.7(2014/06/20〜21) B |
今週の稜線 一気に岩場が出現 |
こちらは蚕玉岳(こだまだけ)〜朝日岳の稜線。左の画像は先週の様子、右の画像が今週のものです。画像の左側が蚕玉岳山頂(標高2979メートル)に続き、画像右側が朝日岳山頂(標高2975メートル)に続いています。
先週はまだしっかりと積雪が残っていたものの、今週はその様子が一変しています。それでも、昨年より1週間ほど遅い雪解けです。
稜線直下 滑走困難です。 |
朝日岳直下 まだ滑走可能 |
そのため、稜線直下はもう春スキーの滑走はできない状況です。現在、春スキーが可能なのは、稜線の北側(右側)の朝日岳直下から大雪渓方面へ滑り降りるルートのみとなっています。
山頂・稜線方面 |
大雪渓エリアへの流入地点 − 横幅15メートル、数日から1週間程度で下山滑走困難に |
下段は朝日岳直下から大雪渓方面を望んだところ。上段の全体画像では、朝日岳直下の赤線の下のくびれた部分です。一番細いところで、幅は約15メートルあり、現時点では滑走に問題はありません。ただ、積雪量が少なくなっていて、今後は急速に雪解けが進むと考えられ、朝日岳から大雪渓への滑走ができるのは、あと、数日から1週間程度と考えられます。
左のハイマツ帯・岩場沿いに滑り降りると、クレパスがありますので、ご注意ください。
左画像 :上からはわかりにくい、右画像:幅1メートル以上のクレパス |
こちらがクレパス箇所。左の画像のように上から見ると、その存在に気付きにくい状態。しかし、右の画像のように開口幅が1メートル以上もある大きなクレパスがあります。深さは2メートル程度ですから、落ちても脱出可能ではありますが、下山滑走時に転落するとダメージがかなり大きいと考えられますので、十分にご注意ください。
稜線直下 | 雷鳥見たくてノリクラに |
さて、話を稜線付近の様子に戻ります。この付近は夏道が九十九折れになっている箇所で、部分的に登山道が見え隠れしている状態です。「ノリクラには初めてやってきました。雷鳥が見たくて来ましたが、なかなか会えません。」と、おっしゃるこちらのお二人。すでに抱卵期に入って、巣から外に出る機会が少なくなっているためと考えられます。産卵前であれば、めぐり合える機会が多いかと思います。
下山はスリップ注意 − 雪に慣れていない方はアイゼン着用を! |
ここから肩の小屋方面は、朝日岳直下に差し掛かり、ご覧のように雪の上を歩きます。(全体画像の「画像E」の箇所)。この部分は往来する人が多く、しっかりとした踏み跡ができていて、ルート上であれば、問題なく歩くことができますが、雪に慣れていない方は、何度か足を滑らせて転倒するケースが多いようです。
アイゼンが必要かどうかという問題は、雪道に慣れているかどうかによって大きく異なり、踏み跡がしっかりできていて、雪道に慣れている方なら問題なく歩くことができても、初心者の場合は、何度も転倒する状況がよく見られます。また、踏み跡ができていても、冷え込んバーンが硬くなると、雪道に慣れている方でもアイゼンが必要となります。
そのため、当WebSiteでは、「アイゼンの携行」と「アイゼンが必要」とという表現を使い分けています。使う頻度は少ないが、万一の場合は必要となる状況の場合は、「アイゼンの携行」と表現し、多くの方が足を滑らせる状況が見られる場合は、「アイゼンが必要」と表現しています。
この先は積雪は登山道上の積雪はありません |
ここから稜線を超えて蚕玉岳方面の登山道上は、積雪は完全になくなります。
【山頂までの登山道 V(蚕玉岳・頂上小屋)】
蚕玉岳山頂 |
稜線を登りきってさらに進むと、蚕玉岳山頂です。積雪は完全になくなります。
剣ヶ峰直前 − 登山道が二手に分かれる | 頂上小屋 |
蚕玉岳山頂を過ぎて、剣ヶ峰直前で登山道が二手に分かれますが、ここを左へ進んで、乗鞍岳頂上小屋の前を通って山頂へ向かいます。
頂上小屋の先は、わずか数十メートルですが積雪が残っていて、頂上小屋の主人が階段を作っていました。
登山者安全のため、雪庇を落とす |
また、雪の端は雪庇(せっぴ)になっていて、踏み抜きの危険性があることから、スコップで雪庇を落とします。山小屋は登山者の安全を守るための避難場所という役目もあって、登山者が安全に行動できるように、手を加えることが場合によって必要となることもあります。
【昨年の今ごろは?】
今月のノリクラ雪渓カレンダーの画像を振り返って見てみると、雨降りの画像がほとんどありません。今年の梅雨入りは例年よりも11日も早く、6月中旬から下旬にまとまった雨降りがありましたが、6月を通してみると空梅雨だったといっても良いでしょう。そんな傾向に反することなく、今回もまずまずの天候の二日間でした。
取材一日目の6月29日(土)は、ほぼ快晴に近い朝を迎えます。強い日差しが差し込んできて、山麓からモクモクと雲が沸きあがるようになってきます。特に長野県側はその傾向がひどく、完全に視界が遮られるタイミングもあるほど。雲の動きはダイナミックで、山麓から雲の沸きあがりと稜線を超えて下降して行く流れが入り乱れ、大雪渓の上空で交互しています。天気予報では午後から雨となっていましたが、正午を回ってもその気配はなく、むしろ午前中より視界がよい状態が続きました。しかし、15時からポツリポツリと降り始め、16時の畳平は夕立のような降り方を見せ、早朝の快晴→山麓から沸きあがる雲→夕方のスコール と、まさに夏山特有の天候を見せてくれました。
取材二日目の6月30日(日)は、やや低めに垂れ込める曇り空の朝を迎えます。今日は乗鞍岳春山バスの運行最終日。いつもの週末と変わらず、スキーヤー・ボーダーを乗せて始発便が出発します。乗鞍高原に低く垂れ込めていた雲の上に到着して、大雪渓は雲海の上の青空が広がります。しかし、山麓から絶えず雲が沸きあがり、10時前から視界が奪われるひどい濃霧。しかし、その濃霧がひんやりとした空気を運んで暑さをまったく感じさせません。午後になると、山麓からの雲の流れ込みはなくなり、視界が回復しました。昨日のような夕立もなく、過ごしやすい一日をおくることができました。
<編集後記>
「ヒルクライムシーズンに向けて熱中症対策。持参したボトルを飲みきってしまう前に下山を...」
ノリクラは真夏になっても、大雪渓付近などでは最高温度が20℃に満たない状況ですから、熱中症とは無縁の世界と思われがちですが、実際はそんなことはありません。特に注意していただきたいのは、ヒルクライマー(自転車)の方。まだ6月ですが、岐阜県側の乗鞍スカイラインで、ダウンしてしまったヒルクライマーがいらっしゃいました。熱中症かどうか判断はできませんが、乗鞍スカイラインの中盤をすぎたところでボトルを空にしてしまい、もう登れない状態になってしまいました。
長野県側の県道乗鞍岳線の場合は、観光センターを基点とした場合、7km先に三本滝レストハウス、15km先に位ヶ原山荘がありますので、途中で水分補給をすることが可能ですが、岐阜県側の乗鞍スカイラインの場合は、終点の畳平までそのような施設が全くありません。
そのため、自転車のフレームに積んだボトルが空になったら、その時点で下山するように心がけて下さい。ヒルクライムは、気温にかかわらず、発汗が多いため、外気温とは関係なく、脱水症状になりやすいと考えられます。また、足が攣るなどの現象も熱中症・脱水症状の前触れといわれていますので、走行中にそのようなことが発生すれば要注意です。
本格的なヒルクライムシーズンがもう間もなく始まります。十分な対策をとって、事故のないようお願いいたします。
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