ノリクラ 雪渓カレンダー
Vol.9(2014/07/05〜06) @
7月最初のノリクラ雪渓カレンダーをおどけします。
一年の半分がもう終り、もうあと半分がこれから始まります。春の雰囲気がまだ残る6月と、本格的な夏の始まりを迎える7月では、まるで雰囲気が異なります。特にノリクラにとっては、県道乗鞍岳線の冬季閉鎖が6月末で終了し、大雪渓までシャトルバスが運行されるようになると、それまでと同じ風景を見ているにもかかわらず、別のものに感じるのは不思議なもの...季節感というものは何気ない雰囲気で大きく左右されるものですね。
7月5日(土)は、雨の朝を迎えます。しかし、9時ごろになると、雨は収まって山頂方面の雲も抜けて天候が回復します。今日の大雪渓は、シャトルバスでお越しになった方よりも、マイクロバスでお越しになったグループの方々のほうが多い状態で、いつもなら賑わうモーグルコースが閑散とする中、ポールやゲートを設置するキャンプがあちらこちらで見られました。時折、青空がのぞく様子が見られる一方、濃霧で視界が妨げられるときもあり、雨は収まっても、天候が安定しているとは思えない状況。また、気温はやや低めで、本来なら寒さを感じてもおかしくないところですが、雪渓を流れる冷たい空気が気持ちよく感じられる様子には、季節が夏に移り変わっているものと実感します。
7月6日(日)は、青空の朝を迎えます。少しベールのかかったような青空で、次第に山頂付近に雲がかかり始めます。大雪渓付近は山麓から湧き上がる雲で、8時過ぎには青空から霧が立ち込める状況。その後は霧がかかったり抜けたりを繰り返します。7月4日(金)から部分開放された畳平のお花畑では、雪解けの進んだ箇所にハクサンイチゲが咲き始めるものの、全体的には例年よりも積雪が多く、除雪機を使用しないと間に合わないほど。遅れていた肩の小屋の今シーズンの営業も今日から始まり、まだバタバタとした中での準備作業が続けられていました。大雪渓はポールやゲートが林立し、これまでにないほどの賑わいです。午後になっても周期的に流れる濃霧は変わらないものの、16時ごろから周期的に雨の降り出す状況となってきました。
<乗鞍岳登山道(大雪渓・稜線付近)の積雪量>
稜線付近は例年よりも多い状態が続いています。特に注意が必要なのは、朝日岳直下と、大雪渓〜肩の小屋の2箇所です。状況としては先週とほとんど変わりありません。
●朝日岳直下は例年より積雪量が多く、かなり積雪が残っています。ただ、多くの登山者が往来するため、踏み跡はしっかりとできています。通常の登山靴であれば、よほど気温が低くない限り、問題は少ないと思いますが、下りで転倒する様子が何人か見られましたので、安全のためアイゼン携行をオススメします。なお、この部分は、例年、7月上中旬ごろまで積雪が残っています。
●大雪渓の登山道入口から肩の小屋まで全区間積雪に覆われています(距離約700メートル)。ただし、登山者の往来が少なく、ほとんど踏み跡がありません。大雪渓の登山道入口から約100メートルのところにある岩(モーグルコースの岩)付近はやや勾配が急で、登りでもかなりスリップしやすい状況です。そのため、この岩の付近はアイゼンが必要と考えられ、例年、7月下旬〜8月上旬まで積雪が残っています。
【7月5日(土)、観光センター前駐車場】
観光センター前駐車場 |
こちらは早朝6時の観光センター前駐車場。
雨降りの朝 | 「雨に濡れてまで滑りたくないなぁ...」 − 出発をためらう |
ご覧の通り、雨降りの朝を迎えています。気温は15℃で、寒くもなく暑くもない状況。この天候で、観光センター前駐車場には15台程度のマイカーしかお越しになっていません。もちろん、出発の準備を始める気配すら感じさせない静かな状況です。
こちらは常連のボードのメンバー。「雨に濡れてまで滑りたくないなぁ...」と、出発しようかどうか思案するところ。かといって、ノリクラに来て何もしないという選択肢を選ぶことは考えられません。
市街地とは逆に雨になると利用者が少なくなるタクシー (7月からタクシー運行開始) |
県道乗鞍岳線の冬季閉鎖が解除される7月からは、観光センター前駐車場の一角にタクシー乗り場が常設されます。市街地であれば雨になると利用の機会が増えるタクシーですが、ここノリクラではその逆の状況...
一向に利用者が訪れない | あきらめ顔 |
さぁ〜どうぞ!と、待つものの、一向に利用者が現れません...
「雨の日は濡れずに家路に着きたい」といった雨の日のタクシーならではの利用シーンがここではほとんどありませんから、致し方ないところです。ここでは「まぁ、こんな日もあるさ!」と、あきらめ顔です...
シャトルバスも利用者は数名程度 |
シャトルバスも1便で数名程度しか乗車されない状況が続きます。シャトルバスもタクシーも売店も、天候に大きく左右されます。
天候に加え、全線開通していないことも影響か? |
すでにお知らせしていますように、県道乗鞍岳線(通称:エコーライン)は、7月に入っても全面開通されず、大雪渓までしか通行できないため、畳平への通り抜けができません。
昨年も同様の状況があり、畳平では通り抜けができる前と後では、客入り状況が異なっていたとのことでしたので、今回も天候状況に加えて、通行止めが拍車をかけている可能性も考えられます。生活道路ではないため、直接的な影響はないと考えられるものの、観光道路はそこに携わっている方々に大きく影響します。その波及効果を計ることができないため、表面的な影響が見えないだけで、ここ数年続く全面解除延期が広く認知されてしまうと、7月上旬の来場者減少に結びついてしまいます。通行止めなどの詳細は、お知らせ
− 県道乗鞍岳線(エコーライン、三本滝〜畳平間)7月からの開通情報(2014/06/26)
をご覧ください。
【観光センターから大雪渓へ、沿道の風景 T】
ここからは大雪渓までの沿道の様子をお伝えします。
アヤメ | 花の付け根が綾目模様だからアヤメ |
乗鞍高原内は色々な花が楽しめる季節になっていますが、乗鞍高原より上部ではこれからが花の季節です。そして、ご覧のようにアヤメの綺麗な紫色を発見することができます。アヤメとカキツバタ、ハナショウブはいずれも良く似た植物です。垂直に立つ内花被と、下に大きく垂れる外花被に分かれますが、外花被の付け根部分に、ご覧のように縞目模様(綾目模様)があるものがアヤメで、ないものがカキツバタです。
乗鞍高原内のアヤメは、もう少し早い時期から咲き始めていますが、こちらのアヤメはまだ咲き始めです。しかし、それほど花期は長くありませんので、お早めにご覧ください。
休暇村 |
さらに進んで、こちらは標高1600メートルの休暇村。
ヤマボウシ | 白い花は花弁ではなく総苞片 |
その入口には大きな白い花が咲いています。ヤマボウシ(山法師、ミズキ科ミズキ属ヤマボウシ亜属)の花弁に見える4枚は、総苞片(そうほうへん)と呼ばれる花序全体を包み込む器官で、実際の花は緑色の中心部分です。中心の坊主頭に白い頭巾をかぶった様子からヤマボウシと呼ばれています。同じ仲間にアメリカ原産のハナミズキがありますが、こちらは別名:アメリカヤマボウシと呼ばれています。
乗鞍高原内のヤマボウシは、多くのものが開花から2週間程度経過していますので、先ほどのアヤメ同様にお早めにご覧ください。ただ、こちらは「花」ではありませんので、比較的長い期間楽しめます。
三本滝ゲート − この先マイカー規制 |
そして、観光センターから7km先にある三本滝ゲート。この先はマイカー規制が実施され、バス、タクシー、自転車、及び、許可車両のみ通行できます。これまでは冬季閉鎖だったため、常時施錠された状態でしたが、7月1日に冬季閉鎖が解除され、ゲートは常時開けられた状態になっています。
ゲートには警備員 − 親しみやすい地元の方 |
通行できる車両かどうか確認するため、ゲート前には警備員が配置されています。実際に担当するのは地元の方が多いため、道路状況や天候・残雪状況もよく承知されています。自転車などで通行する際には、色々お聞きになるのも良いと思います。
昨年10月末以来の再会 |
こちらは翌日の三本滝ゲートですが、この日に当番だった警備員の方も、昨年10月末以来の久しぶりの再会。
「毎週、WebSiteを見てましたよ。8ヶ月振りにお会いするわけですが、ずーっとWebSiteを見てましたから、なぜか久しぶりって感じがしないんですよ。」
本当は厳冬期のノリクラの景色をご覧になりたいようですが、「自分ではとても足を踏み入れる世界ではありませんので、WebSiteで楽しませてもらってます。」とのこと...いつかは実現できるといいですね!
沿道の眺めも季節によって移り変わる |
4月末から6月まで運行された乗鞍岳春山バスから車窓の眺めといえば、雪景色を楽しむものでしたが、現在は最上部の位ヶ原に到達しないと雪を見ることはなくなりました。そして、新緑もかなり濃くなってきて、明るく眩しい状態から、しっかりとした緑へと変わってきました。
これからは高山植物・山野草の季節 | ゴゼンタチバナとマイズルソウ |
そして、これからの季節は高山植物や山野草を楽しめるようになってきます。シャトルバスの車窓から、小さな山野草を見つけることは大変ですが、興味のある方は、車道を歩いて見るのも良いと思います。
ダケカンバの林床を良く見ると、右の画像のようにあちらこちらで白い花を発見します。
ここでは2種類の花がありますが、4枚の総苞片を持つ花がゴゼンタチバナ(御前橘、ミズキ科ミズキ属ゴゼンタチバナ亜属)。先ほどのヤマボウシにも同じように、花のような総苞片がありましたが、ミズキ科ミズキ属は総苞片を持つ種類が多いようです。
なお、葉が4枚のゴゼンタチバナには花がなく、葉が6枚のものには花が見られのが一般的ですが、4枚だから咲かないというよりも、6枚まで成長したから花が咲くといったほうが正しい表現かもしれません。
一面新緑に包まれた沿道を良く見ると、いろいろな山野草にめぐり合えます。
ハクサンチドリ | 名前の由来は千鳥が飛来する様子 |
紫〜ピンク系の花といえば、イワカガミやショウジョウバカマなどが、早々に春の訪れを告げてくれました。そして、初夏を迎えるこの時期に咲くのは、ハクサンチドリ(白山千鳥、ラン科ハクサンチドリ属)、花の様相が千鳥が飛来する様子から命名されています。近い仲間でテガタチドリやノビネチドリがありますが、ハクサンチドリは、花が尖っているところに特徴が見られます。
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先週のヤマザクラ(標高2100m付近) ノリクラ 雪渓カレンダー Vol.8(2014/06/28〜29) @ |
今週のヤマザクラ(標高2100m付近) もう花は終わってしまった |
さて、先週お伝えしたヤマザクラ。今週はほぼ完全に終わってしまいました。なお、このあたりは標高が2100メートルほどです。
ヤマザクラのさくらんぼ =開花かr結実まで一気に= |
そして、すぐ隣のヤマザクラにはさくらんぼが...まだ花も咲いていない山野草がある中で、結実まで一気に進むとは本当に早いものです。それだけ、高山では春から夏、そして、秋へのインターバルが短い証拠かもしれません。
冷泉小屋付近(標高2230メートル) |
さらに進んで、標高2230メートルの冷泉小屋。
緑の濃淡 | ここではヤマザクラが満開 − 標高で開花時期が異なる |
この付近からは針葉樹の深い緑をベースにダケカンバの若い緑のツートンカラーが美しいところです。そして、先ほどの標高2100メートル付近では、すでに終わってしまったヤマザクラが、こちらでは満開を迎えています。わずかな標高の違いによって、大きな差を生み出しています。
これは雪解けを待つ高山植物でも同様で、チングルマやミヤマキンバイなどの高山植物は、ある時期になったら一斉に開花するのではなく、雪解けが終わったところから順次開花する様子が見られます。そのため、大雪渓などでは、場所によって数週間も開花時期がずれることは良く見られます。
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