ノリクラ 雪渓カレンダー

Vol.24(2008/10/25〜26) D

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(Update:2008/10/30)

 

【雷鳥生息調査】

立山などを初めとする北アルプス一帯や南アルプス、そして、御嶽山・乗鞍岳といった高山帯を持つ山に生息する雷鳥は氷河期の生き残りと形容されることもあるほど貴重な野鳥です。氷河期から温暖化が進み、多くの雷鳥が北へもしくは標高の高いところに移動するものの、その大半が住処を奪われて絶滅したと考えられています。世界的に見ると北半球の北部にその多くが分布する中、日本での生息域は最南端と言われ、北アルプスなどの高山帯はハイマツの分布は、雷鳥の生息にとって欠かせない環境が残る貴重な領域と考えられます。

今回は信州大学教育学部 教授の中村浩志先生を中心とした雷鳥の生息調査が行われました。ノリクラでの調査は一年を通して定期的に実施されています。

 

信州大学教育学部 教授の中村浩志先生

すでに子育てが終わり、幼鳥は親鳥とほとんど同じ大きさまで成長しています。そして、この時期は雄鳥も一緒になり、一つの群れを形成して生活します。立山などでは20羽ほどの大きな群れが確認されていますが、ノリクラでは数羽単位の小規模な群れしか確認されていません。

そして、この吹雪の中、大雪渓周辺では雷鳥の鳴き声があちこちで交錯しています。普段の大雪渓からは想像もできないほどの大合唱です。

 

大雪渓から登山道を歩き、肩の小屋へ進みます。

 

肩の小屋周辺は吹きさらしの凍てついた状況

肩の小屋周辺は絶えず西からの強風にさらされ、登山道では30センチ程度の積雪があったものの、ご覧のようにほとんど吹き飛ばされて、凍てついた様子。完全に真冬の様相です。

 

顔面の感覚が鈍くなる − タオルを巻いて

気温はマイナス1〜2℃と、真冬から比べれば遥かに暖かい状況ですが、この吹雪の中では顔面の感覚が次第になくなってきます。そのため、顔をタオルで覆う必要があるほどです。

 

それではここから調査が開始されます。

 

雷鳥を発見 − ザックから双眼鏡を

調査を開始してまもなく一羽の雷鳥を発見します。ザックからすかさず双眼鏡を取り出し観察が始まります。

 

双眼鏡で確認していると、さらに別の雷鳥が現れます。

 

こちらの様子を察して飛び立ちますが、双眼鏡はさらにその先を追います。

 

足輪を確認 − 全羽の個体識別可能なエリアはノリクラだけ

双眼鏡で確認しているのは左右の足に取り付けた足輪の組み合わせ。これにより個体識別が可能となり、雷鳥の縄張りや群れの分布、年齢などを調査することができます。立山など国内には雷鳥の生息地域はありますが、ノリクラのようにほぼ全羽の雷鳥に足輪が取り付けられて調査が行われているエリアはなく、その意味からも、ノリクラは唯一無二の存在といえます。

 

5羽の群れ − まだ黒い羽が残っています

最終的にこのときは5羽の群れを確認することができました。真冬の雷鳥は真っ白な保護色に生え変わりますが、9月ごろから始まる換羽は2ヶ月ほどかかり、ご覧のようにまだ、換羽が完了していません。突然の降雪に雷鳥もまだしっかりと準備ができていないようですね。

 

毎年生まれる幼鳥への足輪の取り付けが地道な作業

成鳥にはすべて足輪がありますが、毎年生まれる幼鳥への足輪の取り付けが必要です。今年は100羽ほどの雷鳥が羽化したものと考えられ、そのうち約80羽の幼鳥はすでに足輪の取り付けが完了しています。少なくとも来年の幼鳥が羽化する前には全数の足輪の取り付けを行う必要があり、これから厳冬期を迎えるまでにできるだけ多くの調査を実施したいところです。

 

吹雪の中でもひたすら調査

朝から降り始めた雪は次第に吹雪となり、視界も徐々に低下し始めます。それでも中村先生の目には雷鳥以外のものは映っていません。ひたすら、調査を続けます。

 

人を恐れない日本の雷鳥は、信仰心の強かった昔の人々に守られてきました

「日本の雷鳥は人を恐れることを知りません。それは高山が信仰の山として崇められ、雷鳥が手厚く保護されてきたことが大きな要因といえます。そのため、足輪による個体識別調査が可能となり、国内だけでなく世界的に見てもノリクラでの雷鳥調査は大きな意味があります。」と、最後に語ってくださいました。

全国的に減少傾向にある雷鳥も、今年のノリクラの個体数は170羽と、マイカー規制実施後の5年間で約4割も増加しています。これは入山数の規制などによる高山植物の植生が回復してきている結果と分析されます。

 

今日も日没まで調査が続きます

この吹雪の中、その後も調査は続きます。中村先生の雷鳥生息調査はいつも夜明けから日没まで行われ、この日もお昼休みを取らずに日没まで続きました Next


■ご注意■

今回の大雪渓関連の記事はノリクラ初心者の方を対象にしておりません。ノリクラデビューをお考えの方は来年の夏シーズンにしてください。
これからの時期は天候の急変により降雪・凍結などで冬山の様相を呈します。今後、大雪渓に新雪が降った場合でも、急斜面とアイスバーンが残っていて、この時期にノリクラの雪渓で滑走されたことのない方や、ソフトブートのボードの方は絶対にお越しにならないようお願いいたします。

 

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