ノリクラ 雪渓カレンダープレリリース版
Vol.1(2020/04/04) C
【ツアーコースV−位ヶ原急斜面】
位ヶ原急斜面 |
こちらはツアーコース最後の位ヶ原急斜面。これまで樹林帯を切りとおしてコースが作られていましたが、この付近からはオープンバーンになります。オープンバーンとは視界が開けているというですが、逆に目印になるものがないという意味でもあり、視界不良時(濃霧)は方向を見失って遭難することを示しています。位ヶ原山荘の看板の位置から急斜面の上端が見えないほどの濃霧の場合は、今日の山行を中止して引き返すことをオススメします。
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昨年の位ヶ原急斜面 2019ノリクラ 雪渓カレンダー プレリリース版 Vol.1(2019/04/06) C |
今回の位ヶ原急斜面 昨年より1メートル近く少ない |
位ヶ原急斜面の積雪は昨年より1メートル近く少なく、積雪の少なかった2016年とほぼ同じ状況です。
バーンはツアーコース下部より固め |
バーンはツアーコース下部よりも固めで、シールのグリップがかろうじて保持できるレベルで、スキーアイゼン(クトー・クランポン)があったほうが安心かもしれません。これからの時期は日中の日差しで緩んで、それが夜間に凍結することを繰り返しますので、春山の森林限界は厳冬期以上に硬いことがあることを念頭に置いた方がよいでしょう。
【位ヶ原急斜面と伊奈川の谷について】
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【本物】左の谷−位ヶ原急斜面(正規下山ルート) | 【偽物】右の谷−伊奈川の谷(間違えて何度も遭難あり) |
さて、こちらは位ヶ原急斜面を上から眺めたもの。左が「本物」で右が「偽物」です...
この2枚の画像は左右連続写真(※)で、左が本物の位ヶ原急斜面で。右は伊奈川の谷で位ヶ原急斜面ではありません。特に濃霧の時は同じような地形に見えてしまい、ツアーコースへ下山する際に間違えて伊奈川の谷へ進んで、これまで何度も遭難が発生しています。乗鞍岳春山バスが運行される4月下旬には、伊奈川に立ち入らないようにロープが設置されますが、この時期はありません。
(※ 実際には左右の画像の間に尾根部分があります。)
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位ヶ原急斜面と伊奈川の谷は隣り合っているので間違いやすい |
ツアーコースの位ヶ原急斜面は青い部分、伊奈川の谷は赤い楕円の箇所です。ご覧のとおり隣接していて、大雪渓・位ヶ原や山頂方面から下山する際に間違いやすい位置にあります。
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伊奈川の谷−大きな岩場があるのが特徴(中央) |
伊奈川の谷には雪着きの悪い大きな岩場があり、これが位ヶ原急斜面との大きな違いです。濃霧の中でも、斜面の中に大きな岩場があるかどうか確認できるはずです。
【位ヶ原】
位ヶ原 |
位ヶ原急斜面を登り切った先の位ヶ原。これより森林限界となります。森林限界を超えると、天候・気候が急激に変化します。もし、急激に雲が流れ込んで視界が阻まれるようになったら、急いで引き返す必要があります。
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昨年の位ヶ原 積雪量204センチ 2019ノリクラ 雪渓カレンダー プレリリース版 Vol.1(2019/04/06) C |
今回の位ヶ原 積雪量165センチ 2016年並みの少なさ |
位ヶ原(標高 約2500メートル)で積雪は165センチ。先週より10センチ減少し、昨年より39センチ少なく、こちらも2016年並みの少なさです。ただ森林限界以降は4月下旬ごろまで、まだ積雪が増加します。
吹きさらし箇所と吹き溜まり箇所が交互に分布 |
厳冬期の森林限界は常に強風にさらされていて、吹きさらし箇所と吹き溜まり箇所が交互に分布しています。吹きさらし箇所はアイスバーンがむき出しになっていて、吹き溜まり箇所は新雪に覆われています。アイゼン等の登攀用具なら問題ありませんが、シールだと不用意にアイスバーンに乗ってしまうと転倒します。
位ヶ原のような平坦な場所なら転倒してもダメージは少ないものの、これが山頂方面などでは、大きな事故になってしまいます。山頂方面の春山スキーが安全にできるようになるのはゴールデンウイーク頃になってからで、それまではまだ山頂方面の春スキーはムリだと認識されたほうがよいでしょう。
山頂方面 直登できるのはGW以降 |
3号カーブ右側斜面(2月1日雪崩死亡事故現場) 春スキーでここを登らない・横切らないようにお願いします |
また、それと同様に山頂方面へ直登できるのはゴールデンウィーク以降で、それまでは山頂方面の登攀ルートは肩の小屋から稜線づたいに登るようにしてください。
摩利支天岳付近の3号カーブ右側斜面は、2月1日に雪崩死亡事故が発生しています。春山スキーのシーズンでこの付近を滑走される方はあまり多くありませんが、春山バスで位ヶ原山荘から大雪渓・山頂方面に向かう際に、この斜面をトラバースして(横切って)登る方がいらっしゃいます。かなり危険はバーンですので、立ち入らないことをオススメします。
<編集後記>
「今シーズンの冬の気候を振り返る...」
今回から春シーズンに向けたノリクラ雪渓カレンダープレリリース版を開始しましたが、今シーズンの厳冬期の天候状況をまとめておきたいと思います。
下の表はアメダス(観測地点:奈川)の2014年〜2020年の月平均の気象統計・ツアーコース積雪量です。
降水量 (mm) |
平均気温 (℃) |
最高気温 (℃) |
最低気温 (℃) |
平均風速 |
日照時間 |
ツアーコース積雪量前年比 | ||||
3番標識 (積雪量) |
5番標識 | |||||||||
12月 | 2014 | 56.5 | -2.1 | 2.8 | -6.8 | 1.7 | 91.6 | 55cm | 90cm | |
2015 | 177.5 | -2.6 | 1.3 | -6.4 | 1.9 | 70 | 125cm | 195cm | ||
2016 | 108.5 | 1.2 | 6.3 | -3.4 | 1.7 | 113.6 | 60cm | 60cm | ||
2017 | 148.5 | -0.1 | 6.0 | -5.7 | 1.7 | 120.5 | 85cm | 80cm | ||
2018 | 39.0 | -2.2 | 2.7 | -7.1 | 2.1 | 113.4 | 85cm | 135cm | ||
2019 | 90 | 0.3 | 5.5 | 4.5 | 1.7 | 109.3 | 67cm | 70cm | ||
今年 | 77.5 | 1.3 | 7.2 | -3.9 | 1.8 | 11.7 | 80cm | 90cm | ||
平年 | 76.8 | -0.7 | 4.9 | -5.9 | 1.3 | 106.8 | 79.5cm | 105cm | ||
1月 | 2014 | 66 | -4.4 | 1.5 | -10.9 | 1.8 | 145.3 | 175cm | 170cm | |
2015 | 102.5 | -3.4 | 1.2 | -8.4 | 1.7 | 124.9 | 125cm | 260cm | ||
2016 | 124 | -2.8 | 2.4 | -7.6 | 1.8 | 110.9 | 95cm | 150cm | ||
2017 | 57.0 | -3.8 | 1.5 | -9.1 | 1.8 | 118.3 | 130cm | 195cm | ||
2018 | 89.5 | -4.3 | 0.6 | -9.3 | 2.1 | 109.6 | 160cm | 240cm | ||
2019 | 29.0 | -3.4 | 2.0 | -9.8 | 1.9 | 140.8 | 85cm | 125cm | ||
今年 | 96.5 | -0.3 | 4.5 | -4.6 | 1.8 | 106.9 | 100cm | 135cm | ||
平年 | 85.9 | -3.6 | 1.5 | -9.2 | 1.3 | 106.5 | 128cm | 190cm | ||
2月 | 2014 | 124 | -4.4 | 1.7 | -10.4 | 1.7 | 167.2 | 75cm | 130cm | |
2015 | 41.5 | -3.2 | 2.4 | -9.3 | 1.7 | 125.9 | 145cm | 260cm | ||
2016 | 119 | -2.4 | 3.4 | -8.4 | 1.9 | 144.9 | 87cm | 130cm | ||
2017 | 91.5 | -3.1 | 2.8 | -9.2 | 1.9 | 142.2 | 165cm | 278cm | ||
2018 | 15.5 | -4.4 | 1.3 | -10.4 | 1.9 | 111.5 | 165cm | 260cm | ||
2019 | 76.0 | -1.2 | 5.6 | -7.0 | 1.7 | 149.3 | 95cm | 135cm | ||
今年 | 89.0 | -1.0 | 5.6 | -7.0 | 1.9 | 133.5 | 120cm | 185cm | ||
平年 | 99.2 | -3.2 | 2.5 | -9.1 | 1.3 | 122.8 | 127cm | 198cm | ||
3月 | 2014 | 256.5 | 0.8 | 6.1 | -4.5 | 1.8 | 157.3 | 120cm | 240cm | |
2015 | 134.5 | 1.0 | 7.6 | -4.6 | 1.7 | 157.7 | 140cm | 275cm | ||
2016 | 66 | 1.4 | 17 | -9.8 | 1.8 | 103 | 80cm | 135cm | ||
2017 | 27.0 | -0.3 | 5.7 | -5.8 | 1.7 | 171.1 | 155cm | 272cm | ||
2018 | 222.5 | 2.7 | 9.4 | -3.1 | 1.7 | 171.1 | 135cm | 235cm | ||
2019 | 109.0 | 1.3 | 7.6 | -4.4 | 1.8 | 147.6 | 140cm | 215cm | ||
今年 | 110.5 | 2.6 | 9.4 | -3.4 | 1.9 | 149.8 | 90cm | 185cm | ||
平年 | 158.1 | 0.6 | 6.7 | -5.2 | 1.3 | 155.5 | 128cm | 229cm |
降水量は1月が平年より多かったものの全体的に少なく、平均気温は各月と平年よりも2℃以上高い状態でした。積雪量は1月・2月は昨年を上回り、例年よりやや少ない状況でしたが、積雪量が増える3月に目立った降雪がなく、最終的に例年よりかなり少ない傾向となっています。
また、昨年は1〜2月の降雪が少なかったため、アイスバーン状態による滑落が多発しました。今年は1月下旬に全山にわたるアイスバーン状態が発生し、その後まとまった降雪のため、2月1日に死亡事故を伴う雪崩が発生しております。(→2020年2月1日ツイッター 2020年2月1日速報)
今後、山頂方面に向かう人数が増えてくる時期になってきますが、ゴールデンウィーク頃までの山頂方面は厳冬期と変わらず、アイスバーンとなっているため、入山人数増加とともに事故件数増加も懸念されます。今一度、ご注意の上、入山してください。
■ご注意■
今回の取材記事は、バックカントリースキー・ボードの経験のある方を対象としたもので、初めての方へのイントロダクションという位置づけの内容ではありません。
初めてツアーコースなどにトライしてみたい方は、経験者と同行するか、ガイドツアーに参加されることをお勧めします。(乗鞍高原などにはガイドが同行するツアーを企画する会社がありますのでお問い合わせください。)
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